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インタビュー

AMOUR(フレンチ/東京・広尾)

2020年の夏季オリンピック開催を控え、外国人観光客の注目度も高まる日本の首都、東京は、日本の政治、経済、文化の中心地であり、また世界的なグルメシティ。東洋と西洋の食文化が融合し、数々の名店がひしめく東京で、「メイド・イン・ジャパンのフランス料理」という独自のジャンルを切り開き、食通たちの注目を集めるレストラン「アムール」。後藤祐輔シェフは、「N34」のお客様。料理へのこだわりや「N34」の魅力を聞いた。

「AMOUR」プロフィール

「メイド・イン・ジャパンのフランス料理を提供することこそが、この東京でシェフを務めることの意味ではないかと考えています」

後藤シェフが、フレンチのシェフになることを志したのは、まだ見習いの調理人だった20歳のころ。シェフになるために、何を学ぶべきか。調理ばかりではなく、店舗運営のマネジメント技術も必要になる。シェフになるという目標に向かって、真っ直ぐに走り続けた。そして30歳で念願のシェフとなる。その後も活躍の場を移しながら、フレンチの料理人としての道を歩んできた。

店内

その後、自分が理想とする店をつくりたいと、出資者と組み、都内で出店を計画するが、2011年に東北を中心に未曾有の被害をもたらした東日本大震災の影響で、やむなく計画は頓挫。アルバイトでつなぎながら、ふたたび舞い込んだ出資のオファーに、再起をかけて開業したのが、このアムールだった。
「初めてシェフになってから、もう10年。料理人としての自分の考えも、目標も、その時々によって変わってきましたが、たどり着いたのが、ジャパニーズ・フレンチだったのです。この日本にある限り、フランス料理で、フランス人のシェフに追い付こうとしても、食材も違う。食文化も違う。料理は自由であっていい。日本でしかできない、自分の料理を目指そうと考えたのです」

扱う牛肉は「N34」のみ

料理

アムールの肉料理は、牛肉に限らず、豚肉や鶏肉でも、大きめの部位肉の状態でローストした上で、とりわけ状態の良い部分をカットして提供するスタイル。ただ、通常、12、3皿の料理が並ぶコースで、メインの肉料理が提供される時分ともなれば、満腹感も相当なもの。
素材や調理方法には、残さず食べていただくための工夫や配慮が必要になる。
「肉料理の調理では、特に火入れにこだわっています。また、肉料理に限ったことではありませんが、素材のもつ特長を生かしながら、最良の状態で味わっていただく。さらに、日本の食材をふんだんに使って、アムールならではのメイド・イン・ジャパンのフランス料理を追求しています」
そんな「日本のフレンチ」というコンセプトを前面に打ち出すようになったのは、2012年の開業当初にオープンさせた西麻布の店舗を、現在の恵比寿に移転した2016年。初夏を迎えた6月のいま、緑が目に鮮やかな庭が印象的な一見家の同店だが、物件を探していた当時、この庭を気に入って、移転を決めた。「店の改装はもちろん、店の内装の雰囲気や接客スタイル、メニューに至るまで、すべてが、自分の思い描いた理想のレストラン」
メインの肉料理が、サーロインと聞いて「脂っこいのでは」と困ったような表情をされるゲストもいらっしゃると言うが、「それでも自信をもって、ローストをご提供しています。もちろん、最後にはもう、どなたも、ローストをペロリと平らげて、皿に何も残りません。それだけ脂がさらりと軽いということ」。

こうして店づくりに「日本のフレンチ」を打ち出して、確かな手ごたえを感じ始めていた後藤シェフだが、2年ほど前までは、自分の料理にふさわしい理想の牛肉をなおも探していた。そんな後藤シェフが出会ったのが、ノベルズ食品だった。当時は、今日のように「N34」としてブランド化されておらず、ノベルズ食品も、新しい牛肉のあり方を模索している時期でもあった。
「どんな肉だろうと半信半疑。ところが食べてみると、やわらかく、ほどよく入った脂がすこぶる軽い。そこで、微妙なサシの入り具合といったベストな肉質を求めて、細かなリクエストを出しながら、自分の思い描く最良の牛肉を目指してきました」

「N34サーロイン」のローストについて

料理

「一切れを口に運ぶと、ハッとするのは、その豊かな味わいとサックリとした食感。かみしめると、ジュワッと肉汁があふれ、牛肉らしい赤身の濃いうまみが口いっぱいに広がる。さらに加えて、サラッとキレが良く、香り高い脂が醸し出す余韻が、楽しめる。そのとき初めて、すべてがそろったのです。ああ、これが自分の追い求めてきた牛肉のローストだと、ようやく思えた瞬間でした」

いまや同店の看板メニューともなっている「N34サーロイン」のロースト。試行錯誤を重ねて、この一皿にたどり着いたのは、ようやく2016年頃のこと。すでに開業から5年ほどが経っていた。
「いまの自分が到達することのできる最上のロースト。自信をもって言えます。多くのシェフが腕を競い、時代のトレンドも取り入れながら変化し続けるフレンチの世界でも、このような調理法のローストは、そうはないと思います」

出荷前のブロック肉を画像で確認

ワイン

一般的な牛肉に比べて長期間にわたって飼養されることによって深まる赤い肉色が、「N34」の特徴のひとつ。その肉色は、長い年月を経て熟成されたワインのガーネット・レッドに似ている。
厳格な独自の基準によるグレーディングを経て提供される「N34サーロイン」を、重さ3.5キロ程度のブロック状態で仕入れる。微細なサシの具合などにこだわる後藤シェフは、出荷前のブロック肉を撮影した画像データを産地の北海道からメールで送らせ、事前に確認。仕入れるブロック肉を選ぶ。
「肉質のブレは、食材としての牛肉の宿命。同じ環境で飼養しても、それぞれ1頭ずつ肉質に違いが出てくるわけですが、グレーディングによってブレを防ぐことができる」
ローストの予約が入った当日は、ブロック肉の状態を自分の目でよく確かめながら、調理しやすく、食べやすい、重さ数キロの塊肉に切り分けていく。塊肉は、50度ほどの温度に温めたオイルに浸して、1、2時間かけてゆっくりと加温。こうした火入れで中心部まで均一に熱が伝える。
後藤シェフの調理方法で最も特徴的な調理工程が、ロースト(焼く)。以前は、後藤シェフも、フランス料理で一般的な調理方法にならって、油やバターを熱したフライパンで焼き目を付けていたが、「バターの香りすらも、本来の牛肉の味を楽しむ上では、本当は余計なものではないかと、だんだんと思うようになっていきました」「油を使わない方法が、なにかないのか――。あるとき、炭火を試してみたのです」

炭

日本の伝統的な調理法である炭火。木炭のうちでも、特に樫(カシ)のみを原料とする備長炭を使用する。備長炭は、火保ちがよく、高温の状態が安定して長く持続する。
厨房に用意された炭火。すでに熾火の状態で準備が整っている。そこへ、金網に載せたサーロインの塊肉を運ぶ。真っ赤になった高温の炭火でジリジリと焼かれる塊肉。その表面に、まんべんなく褐色の焼き色が着くように、こまめに角度を変えていく。フツフツと脂がにじみ出てくる。塊肉の表面を伝って滴る脂は、高温になった炭で焼かれ、瞬時に白煙に変わる。

料理

「熱せられた塊肉には、肉汁がパンパンに詰まっています。その中をぐるぐると肉汁が回っていて、踊っているような状態。その一方で、高温の炭に落ちた脂が煙になって立ち上り、肉が燻され、スモークされるわけです。余分な脂も落ちるので、味も、香りもぐっと深まっていきます」
しっかりと焼き目がつくまで焼き上げる。下ごしらえの際に切り落とした牛脂は、あらかじめ小鍋で溶かしておき、途中、丹念にハケで塗ってコーティングする。こうしてパサつきを防ぎながら2、3周させ、炭火から降ろして、数分、休ませる。適度に温度を下げて落ち着かせ、スライスするときに、せっかくの肉汁が流れ出てしまうことがないように。
次に鋳物の鍋に、藁を敷き、ロースト済みの塊肉を入れる。蓋を閉じて密閉した鍋を一気に加熱。鍋の中では、藁が燻され、スモークが充満している。このまま蓋をした状態で鍋ごと、ゲストが料理を楽しむダイニングに姿を現す後藤シェフ。
「こちらが本日のメインディッシュのローストです」

肉

視線が鍋に注がれたその時、蓋を外すと、白い水蒸気が放たれ、ほのかに甘く、香ばしい藁のスモークがダイニングじゅうに広がり、食欲を刺激する演出だ。隣席のゲストも、興味津津というご様子。こうして料理の紹介を終えて厨房に戻り、鍋から取り出した塊肉を手早くスライスして、盛り付ける。

料理

「こうした調理方法は、自分のオリジナル。炭火で焼かれた香ばしさと、甘い藁の香りをまとうことで、牛肉の美味しさが一層際立ちます」

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