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インタビュー

TACUBO(イタリアン/東京・恵比寿)

『ミシュランガイド東京』でも高く評価されているイタリア料理店「TACUBO」。予約が取りにくい人気店だ。そんな店のメインディッシュは、「N34」のサーロインを使った「十勝田くぼ牛の薪焼き」。カウンター内に設置された前面開放式の窯を使って、薪焼きしていく塊肉に、多くの人が魅了されている。そこで今回は「TACUBO」のオーナーシェフであり、「N34」のお客様でもある田窪大祐氏に、料理へのこだわりや「N34」の魅力を聞いた。

「TACUBO」プロフィール

恵比寿駅または代官山駅から徒歩7分ほど。人通りが少なくなった住宅街に「TACUBO」はある。店の入口は奥にあり、通りからは見えづらい。知っている人しか入れない、そんな隠れ家のような飲食店だ。いざ入ってみると、店内はナチュラルな雰囲気で、薪の香りが漂っている。またカウンター8席と、最大6人収容できる個室が2部屋しかない珍しい造りになっている。

店内

メニューはおまかせのコース料理のみ。“仕入れの段階から調理は始まっている”という哲学のもと、生産者とのつながりも大事にしている「TACUBO」では、食材を最高の状態でお客様に提供できるよう、おまかせになっているのだ。

オーナーシェフ

そんな「TACUBO」のオーナーシェフを務める田窪大祐氏は、子どもの頃から料理番組を見るのが好きで、簡単な調理をしていたという。そして大阪あべの辻調理師専門学校に入学。最初は和食希望だったが、イタリア料理の実習でペスカトーレを作った時に、フレッシュなトマトソースと茹でたてのパスタのおいしさに衝撃を受け、イタリアンの世界にシフトしていった。

卒業後は愛媛のイタリア料理店に就職するも、“もっと料理の勉強をしたい”と思うようになり、3年後に上京。その後、修業を重ね、30歳の2006年に自身がオーナーシェフを務めるイタリア料理店「リストランティーノ バルカ」を広尾にオープンした。2010年には恵比寿に移転し「アーリア ディタクボ」を、そして2016年4月には再び移転し、薪焼き肉がおいしいイタリア料理店として「TACUBO」を開いた。

店内

「自分は世の中に求められているスタイルを見つけ出すのが得意だと思っている。だから時代に合わせて、店のスタイルやコンセプトを変えてきた。また30代で開いたお店に、40代の自分が身を置いているのが、不自然だった。とはいえ、3店舗目の『TACUBO』は、自分にとっても落ち着ける場所。この店は、長くやれるのではないか」オーナーシェフとしての経験も充分に積んだ田窪シェフはこう語る。遂に自分が理想とする居心地のいい店ができたのだ。

薪焼きについて

炭

薪焼きとは、薪の熾火で加熱する手法のこと。前面開放型の窯で薪を燃やすと、ホカホカと柔らかくて穏やかな熾火になるのだ。薪には、関西地方でとれたナラの材木を使用している。ナラは燃えやすくて香りに癖がないのが魅力だという。

炭

そんな熾火の上に焼き網を設置し、冷蔵庫から出したての冷たい塊肉を強火で焼いていく。15~20秒ごとに裏表をひっくり返すこと、約10分。網の焼き跡が付かないよう、こまめに向きを変え、塊肉を休ませることはない。素材に木々の香ばしさを与えつつ、薪が含む水分で、ふっくらとジューシーに焼き上げていく。

料理

田窪シェフが薪焼きに出合ったのは、2013年。都内のとあるレストランで、薪焼き肉を食べたのがきっかけだ。
「その頃は低温調理がブームであり、これから自分は低温調理をやったほうがいいのか、それとも炭火で焼くのがいいのか迷っていた時期でもあった。そんななかで薪焼きのお肉を食べて衝撃を受けた。焼きたてのお肉は肉汁に熱量があり、火の味を感じた」
この時の衝撃は、新たな料理哲学を生むことになる。
「焼肉は人を惹きつけるが、料理の理論からみれば、肉に対してストレスがかかって決していい焼き方ではない。だけど、おいしい。それはなぜなのか。やはり目の前で火を見ながら焼くことであり、焼きたてを食べられるテンションなのではないか」
焼肉のような熱量で塊肉を焼くには、薪焼きしかないと確信した田窪シェフは、その後、薪焼きをしているレストランを見学させてもらうなどし、知識を深めていった。
「とはいえ正直、今も毎日勉強しながらやっている。褒められても、自分の中ではまだまだ」と田窪シェフは話す。淡々とした口調だが、その姿からは強い意志がみえた。

N34との出会い

肉

田窪シェフは、知人からの紹介で「N34」と出合った。
「できあがったブロック肉の中から月齢やサシの入り具合など見て選べる。また自分の好みにカスタマイズしてもらえると聞いて紹介してもらった。目で見て、自分がいいと思ったお肉だけを購入できるのは、画期的なサービスだと感じている」
もちろん生産者を絞っていけば、ある程度は同じような味わいの肉を提供することは可能。だが、牛は一頭一頭異なるもの。味のクオリティを一定に保つのは難しい。
「もちろん流通のシステムだけでなく、『N34』の香ばしさや赤身のしっとり感も気に入っている。食べてもらいたいお肉の味も出せるし、自分が焼きたい焼き加減にもできる。このように自分たちが欲している食材を仕入れないと、いくら調理を頑張ったって、目指しているメニューは作れない。たとえば黒毛和牛のように脂身が多い牛肉を、いくら薪焼きにしたからって赤身の味がしっかりするステーキにはならない。料理でできることは、最後のほんのわずかな工程でしかない」

N34のサーロインについて

料理

コース料理のみを提供する「TACUBO」にとって、メインディッシュはお店の評価を左右する大事な一皿になる。
「十勝田くぼ牛の薪焼き」の焼き方は、先述した通り。そして焼き上がったお肉に、粗めの結晶で味が強い、イギリス産の塩・マルドンを振りかけ、アツアツのまま提供する。調理方法は至ってシンプルだ。
表面はしっかりと焼き色が付き、まるで揚げ焼きのようにカリっとしている。そして中はジューシーで、ナイフで切った時は肉の中に肉汁がとどまっているが、噛むことでようやく肉汁と旨味が溢れだす。食感のメリハリもおいしさのポイントだが、何より赤身の濃い旨味がしっかりあって、肉本来の味わいがするのが魅力だろう。肉を食べたという満足感も得られる。

料理

「お客様は40~50代の方が多く『黒毛和牛のA4・A5ランクのサーロインはもう食べられない』と言う。ところが『N34』のサーロインを食べてもらうと、『サーロインなのに軽い、これなら食べられる』というお言葉をいただく。黒毛和牛でいうところの、ランプくらいのイメージでサーロインを食べてもらえるのではないか。お肉本来の味がしっかりすることで、年齢問わず多くの人に受け入れられていると感じる」と田窪シェフは口元をゆるめる。メインディッシュの評価に手ごたえを感じているようだ。
ちなみに食器は、有田焼・カマチ陶舗の和食器を使用。「TACUBO」のテーマは“自然”であるため、食器の柄も自然にありそうな模様や色をセミオーダーしている。

N34のハラミについて

料理

「N34」のハラミの薪焼きもメインディッシュの一つ。通常はサーロインを提供するが、要望があったり、常連であったりすれば、ハラミを焼くこともある。サーロインに比べると噛み応えがあり、繊維もしっかりしているので咀嚼回数が多いのが特徴だ。

料理

また違いは焼き方にも表れる。ハラミを焼くときは、ナラの熾火に加え、岡山産のオリーブの木の枝も燃料として使用する。こうすることでオリーブの香りが立つのだ。今後は、ブドウの木の枝なども使っていくという。

「ボロネーゼ」について

料理

メインディッシュである「十勝田くぼ牛の薪焼き」は、「N34」のサーロインの中でも特においしい部分のみを使用している。そのため必然的に端肉が生じてしまう。この端肉を有効活用するために考案されたのが「十勝田くぼ牛のボロネーゼ」だ。
端肉を使うとはいえ、シンプルな薪焼きとは異なり、ボロネーゼは時間と手間をかけて作っていく。ソースが完成するまでになんと約1週間かかるのだ。

フライパン

まず端肉を脂や筋の多い部分と、赤身の多い部分の2種類に分ける。そして脂や筋の多い部分は赤ワインで煮詰めるなどして煮崩れさせ、一方の赤身の多い部分は、粗挽きにし、肉の風味を残す。部位それぞれの長所を生かした2種類を合わせることで、味わい深いボロネーゼソースができあがるのだ。なにより肉の量は、一般的なボロネーゼの2倍以上ある。

フライパン

そして、イタリアで定番のバリラ社のツルリとした乾麺(1.7mm)と混ぜ合わせ、仕上げに、熟成期間が短いチーズのグラーナ・パダーノをスライスしてふりかける。
「お肉をこれだけ使っているからこそできるボロネーゼ。そういう意味では『TACUBO』ならでは」と田窪シェフは自負する。ちなみに「十勝田くぼ牛のボロネーゼ」はメイン料理を提供した後に、“お腹に余裕があれば”お客さんの要望に合わせて提供する。量もお客さんの空腹具合に合わせ、調整できるのだ。

N34に合うワインとは?

ワイン

左から「Vino Nobile di Montepulciano」(イタリア産)、「BAROLO RISERVA VICNA VILLERO」(イタリア産)、「GIFFARRO」(イタリア産)、「MODRI(PINOT NOIR MOVIA)」(スロベニア産)、「NYMPHA」(イタリア産)

「TACUBO」は、ワインにも力をいれている。イタリア産やフランス産のワインが多いが、国や品種に絞ることなく、ソムリエである松本直樹氏が「おいしい」と思ったものをそろえている。
「『TACUBO』では、“仕入れの段階から調理は始まっている”という考えがありますので、畑仕事から醸造など細かいところまで丁寧に作られているワインのみを仕入れています。そのため、商業的で大きなワイナリーではなく、家族経営の小さなワイナリーのワインが多くなっています。またインポーターは、自社の倉庫にあるワインの状態を把握している少数精鋭の企業とお付き合いしています」とソムリエの松本氏は話す。
田窪シェフが生産者とのつながりを大事にするように、松本氏もワイナリーを訪れ、生産者とのつながりを大事にしている。2018年の夏には、実際にスロベニアまで出向いたという。 「N34」のサーロインには、やわらかく、お肉の旨みをしっかり前に引き出してくれるような赤ワイン「Vino Nobile di Montepulciano」、「BAROLO RISERVA VICNA VILLERO」(どちらもイタリア産)などが合う。一方でハラミには、味わいのクセが長いものやスパイス系の複雑さがある赤ワイン「GIFFARRO」(イタリア産)、「MODRI(PINOT NOIRMOVIA)」(スロベニア産)などが合うという。シメのボロネーゼには、煮詰めたような凝縮感のある少しインパクトのある赤ワイン「NYMPHA」(イタリア産)がおすすめとのこと。

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